猫の額

初心者の猫と庭いじり。日々のこと。

マディソン郡の橋

マディソン郡の橋」という小説が一昔前に流行ったことがあった。アメリカの片田舎で、日常生活に不満を持っている牧場主の妻が、家族の留守中に行きずりのトラック運転手と一週間の恋愛をする、という話だ。

覚えている範囲の荒筋。この主婦は、夫が粗野で野球くらいにしか興味を持っていないことや、子供たちもそれに倣う感じなことに不満を持っていて、自分は周りとはどこか違うと感じている。また、お相手のトラック運転手は自称カメラマンで、芸術写真家になりたいが生活のためにトラック運転手などをしている。現状に満足していない二人が偶然に出会い、お互いに理解しあえる相手に出会ったと感じ、恋に落ちる。
よくある不倫小説と言ってしまえばそれまでだが、アメリカの美しい風景やロマンチックな描写がよかったのだろう、「真実の愛」的な煽りで、大層話題になっていたことを覚えている。

この小説をある男性から勧められたことがある。感動して泣いた、と言っていた。彼は結婚していたが、そのころ不倫の恋をしていたのだ。その自分の状況を小説に重ね合わせたのだろう。(わかりやすいな~)
私は一応読んでみたのだが、残念ながら、ほとんど共感できなかった。主人公二人とも、全てを捨てて一緒になるという事もなく、結局最後は元の日常に戻っていき、しょせん現状の不満を恋愛にすり替えただけと感じられ、どこが真実の愛なのか、全くわからなかった。また、女性の子供たちが、母の死後日記を見つけて、母の一週間の浮気と、その後もその気持ちを持ち続けていた事実を知った後の行動も理解に苦しむ。子供たちは、母が父でない男性に恋をしていた、という事を「母の真実の愛」に感動した、的なことを言って許してしまうのだ。いや許すのは構わないけど、感動する理由がわからない。父がかわいそうだとは思わないのか。

私が唯一心を動かされたのは、女性の夫が死ぬ前に残した言葉。「妻が自分に不満を持っていたのは知っていたけれど、どうすることもできなかった。」といったことを言って夫は亡くなる。この夫は確かに繊細なタイプではなく、女性を理解できずにいたけれど、悪い人ではなかったし、妻が自分を本当の意味では愛していないことも感じていたが、ちゃんと妻を愛していた。私はその不器用な愛にこそ感動した。
実らなかった恋は美しい。不倫が盛り上がるのも同じ理屈。しかしそれが「真実の愛」と言うのは、生活という、ある意味退屈な日常をなんとか生きている人に失礼ではないか。

そういう意味で、この主人公たちには全く共感はできないけれど、こういう小説を読んで日常の不満を消化できるのなら、それはそれでいいのかもしれないね。