猫の額

初心者の猫と庭いじり。日々のこと。

特別な萩尾望都

私にとって、萩尾望都は特別な漫画家だ。それはおそらく、私くらいの年代の多くの漫画好きにとって同じことが言えるのだと思うけれど、やはりそう思うのは仕方がない。

子供のころはまだ少し内容が難しすぎて、理解が及ばなかった部分が多かったけれど、大人になって読み返してみても、本当に奥が深い。とりあえず最近の作品は置いておいて、昔の作品に限って言えば、最近の漫画家の方が絵が上手かったり、話がよくできていたり、そういう部分は確かにある。でもそういう要素的な魅力ではなく、話の持つ力、作品全体の世界が違うと思う。

とにかく全体が一片の詩のようで、文学的、というより、本物の文学を感じさせるのだ。それは、トーマのような作品は元より、ファンタジーであろうと、SFであろうと。理屈ではなく、感情に訴える部分が大きい。流れるような絵と詩的なモノローグ。美しく切ないラストシーン。でもセンチメンタルに陥りすぎない。現実のどろどろしたものを書いていても常に美しい。リアリティに欠けるともいえるかもしれないが、逆にあの何を描いていても感じられる美しさは他の誰にもまねできない。「訪問者」のような作品が他にどこにあるか。
まだ20代であの世界を作り出した作者は、まぎれもなく天才だと思う。

残念ながら最近の作品は絵が動かなくなり、話は理屈っぽくなり、不自然な感じが否めないが、年齢を考えればあのクオリティを維持しているのはさすがだと思う。
 そして昔の作品は、リアルタイムで読んでいたころより、今の方が惹かれる部分が多くなっている。自惚れだが、それは、郷愁からというより、おそらく自分の感性が豊かになったからだというような気がする。

 どれが一番、とかはなかなか難しいが、やはり「訪問者」「ポーの一族」「11人いる!」
「マージナル」。そして地味だけど、「ゴールデンライラック」。ゴールデンライラックはなんというか、私の血肉になっているのではないか、と思うほどで、好きというのとはまた違うような、言葉では表せないような感じ。あと、ラストシーンがとても印象的で忘れられない短編「金曜日の集会」。「百億の昼と千億の夜」も好きだったなぁ。みんな、キャラクター萌えなどという安っぽい(?)ものではなく(もちろん、タダとか阿修羅とか好きだけど!)、とにかくストーリーと表現。1つの作品としての完成度が素晴らしい。
 
萌え~、とかいう感じでないだけに、人と語り合ったりするのは難しい。自分の中に大事にしまっておくような存在。他にどんなに好きな漫画家ができようと、心のどこか別枠にしまっておくような存在なのだ。